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十五歳 vol.6

「いらっしゃいませ」
二人がログハウス風の建物に入ると、フロアマネージャーらしき紳士が満面の笑みで出迎えた。
「チェックインでございますか」
紳士は、瞬時に二人の値踏みをした後、二人をフロントに案内した。
フロントで南部が手続きをしている間、ジョーはソファーに座り、ロビーの様子を眺めていた。
建物は、外観だけでなく内部もログハウス風になっており、壁面には丸太があしらわれ、見上げると太い木の梁が見える。床も木材だ。
こういうタイプの建物を見たことがなかったジョーにとっては、何もかも物珍しかった。
故郷の島は伝統的な石造の建物ばかりだったし、ユートランドの建物は実験都市に相応しく総じて超現代的なモダン建築である。
「降水量の多い温帯モンスーン気候の地域では森林が形成されやすく、良質な木材の確保が容易なため、伝統的に家屋には木材が使用されている、んだったな…」
何年か前に暗記させられた地理のテキストの一節を、ジョーは天井を見上げながら小さな声で暗唱した。
木材を巧みに組み合わせた天井の梁を飽きもせず見つめるうちに、ジョーは、故郷にあった聖堂の佇まいを思い出していた。見事なドームを持つ石造りの聖堂に、悪ガキ仲間のアランと一緒に忍び込んでは悪ふざけに興じたものだった。
ジョーは目を閉じた。不意に甦った故郷の記憶に浸りたかった。
輝く青い空、乾いた台地、荘厳な大聖堂、響き渡る鐘の音。
もう何年も会っていない、赤い髪のアランは今ごろどうしているだろう。とんでもない不良になっているんじゃないだろうか。
「待たせたな、ジョー」
追想は、南部の声に遮られた。ジョーは目を開けた。


客室までは、黒髪をきりりと纏めた清楚なベルガールが案内してくれる。
備品や設備についての説明も懇切丁寧だ。一通りの説明のあと、
「どうぞ、ごゆっくりお過ごし下さいませ」
と、深々と一礼してベルガールが出ていくと、南部は観音開きの窓を開けた。
心地よい涼風が室内に入ってくる。
「見てごらん、ジョー。溶岩ドームがよく見えるだろう」
南部は、かなり近づいてきた山頂を指差した。
「明日は予習をする。あの近くへ行くのは明後日だ。今日は好きにしたまえ」
夕飯迄は間があるから、プールでもいってくればいい、との南部の勧めに、ジョーは素直に従った。道中座りっぱなしで、体が強張っていたのだった。
しかしジョーは、一時間も経たずに、やや浮かない顔で戻ってきた。
「女の子たちが寄ってきて、泳げやしねえ」
何かあったのかと心配して訊ねた南部に、ジョーはそう答えると、ふて腐れた表情でベッドに寝転んだ。
「俺は泳ぎたいんだ。ナンパしたくてわざわざこんな山奥まで来たんじゃねえや」
悪態をつき、チッ、と軽く舌打ちをする。
「どうしたら女の子が寄ってこなくなるんですかね、博士?」
ジョーは寝転んだまま、顔だけを南部のほうへ向けた。
南部は、人差し指と親指で眉間を押さえながら言った。
「ジョー、その分野は私の専門外だ」
「えぇ?」
南部にも未知の領域があるのか。驚きのあまり、ジョーは半身を起こした。
「日本には、畳の上の水練、という言葉があるのだが、知っているかね?」
ジョーは首を振った。
「理論や方法だけ知っていても実践してみなくては何の意味もなさない、という意味なのだが、女の子のあしらい方はまさに実践あるのみ」
「実践、あるのみ…」
ジョーが呟くと、そうだ、と南部は深く頷いた。
「これまでいくつもの試練を乗り越えた君なら、この試練もきっと乗り越えられるはずだ。残念ながら私には実践のための時間がない。 ジョー、私の分まで頼んだぞ」
真剣な眼差しを自分に向ける南部に、よくわかりません、と言うのをジョーがためらっていると、南部が再び口を開いた。
「ところで、これから女の子のいないところに行くのだが、一緒に来ないかね?」




「入浴の前に、この地域の入浴方法について説明する」
大浴場の脱衣場で、南部は腰に片手を置いたいつものポーズで説明を始めたが、 浴衣の裾から長い足が十センチ以上覗いているのが、浴衣を知らないジョーが見ても微笑ましかった。
「この地域では全裸で入浴するのが作法だ。浴槽に入る前に体を洗うか、かけ湯をするが、石鹸分が残ったまま浴槽に入るのはタブーだから気を付けるように」
南部の説明が終わるや否や、ジョーはバスローブを脱衣籠に放り込むと、大浴場へスタスタと入っていった。
南部が浴衣を畳みながら、若者というのは何故ああせっかちなのか、と考えていると
「Oh!Mamma mia!!」
と、大浴場からバリトンの絶叫が聞こえた。


続く…。


訃報
南部博士を演じられた大平透さんが旅立たれました。
テレビの黎明期から活躍された声優のパイオニア的存在であり、アニメから洋画まで、多彩な役柄で数多くの作品に出演され、業界の第一人者として生涯現役を通されました。

大平さん、長い間、ありがとうございました。












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