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十五歳 vol.8

「ジョー、起きなさい」
南部がジョーの肩を揺すると、ジョーはうっすらと目を開けた。
「夕食の時間だ。着替えなさい」


ホテルのレストランとはいえ、リゾートホテルで、しかもブッフェ式なので煩わしいドレスコードのようなものはない。
南部は上質な麻のシャツとズボンのみでジャケットは無し、ジョーもTシャツにブルージーンズという、至ってラフな服装である。
それでも、レストランではウェイターが恭しく席まで案内してくれる。
ロッジ風のレストランはかなり広く、中央にブッフェの食事が置かれ、周囲に席が配置されている。席は八割がた埋まっている状態だ。
席につくまでの間、ほんの僅かな時間であるにも関わらず、南部は自分たちに向けられた周囲の視線が気になって仕方がなかった。
日本人としては並外れた長身である南部は、平均身長が高くない地域では素朴な好奇心に満ちた視線に晒されるのが常である。また、人前に出ることも多いため、人から見られることには慣れていたが、今、彼らに向けられている視線はいつもとは些か種類が違うように南部には感じられた。
ジョーも周囲の視線を感じていたらしい。席につくなり、言った。
「博士、やっぱりこのホテルは変だ。どいつもこいつも俺たちをチラチラ変な目で見やがる。いったいなんだってンだ」
うむ、と相槌は打ったものの、南部にも確たる理由はわからない。
「まあ、気にしても仕方ない。さっさと食事をいただいて、さっさと退散しよう」


「きゃーっ」
南部とジョーがレストランから出るのと入れ違いに、件の女の子たちがジョーに手を振りながらレストランに入っていった。
一瞥もくれないジョーを、名残惜しげに振り反っては、キャーだのエーだの囁いている。
「なんだね、あれは?」
南部は微かに眉を顰めた。
「知りませんよ。プールでもやたら話しかけてくるし、人を見ればキャーキャーと、鬱陶しいたらありゃしねえ」
どうやら注目されているのは自分よりもジョーだということを南部は認識した。
この土地の住民はアジア系で、従業員も客も殆どが現地人なのでジョーのようなヨーロッパ系の、それも十代の少年は珍しい。そのもの珍しさが目を引いているのだろうが、女の子たちの反応を見ていると、他にも理由がありそうに思える。だが、理由が何なのかは南部にもわからない。
「うむ、敵意や害意は無いようだが、どうも解せんな」
二人とも、首を傾げるばかりだった。


数時間後。
「ここの風呂は良いんだがな」
ジョーがロビーで湯上がりの水を飲んでいると、キャッキャッと笑いさんざめく声がした。
例の女どもか、とジョーは心のなかで舌打ちする。度重なる無礼に、いつしか形容に悪意が入っていた。
「きゃーっ、こんばんはー」
何で毎度毎度きゃーと言わなきゃならねえンだ、という代わりに、ジョーは万感の思いを込めた鋭い目線を彼女たちに向けた。目付きの悪さには自信がある。
だが、これで近寄ってこないだろうというジョーの目論見は敢えなく潰えた。キャーッこっち見たわー、と、彼女たちはますます盛り上がっていった。
「うふ、こんばんはっ!ねえ、あなたとあの素敵なおじ様ってどういう関係なの?」
リーダー格と思われる女の子が興味津々という風情で質問してきた。その横で他の女の子たちは、ジョーの顔を覗き込んで眼が水色だとか言いながらはしゃいでいる。
「素敵なおじ様?」
一瞬なんのことかわからず、ジョーは思わず聞き返した。
「さっき、背の高いダンディーなおじ様と一緒にレストランから出てきたでしょ」
南部との関係を聞かれたときの対応は予めシミュレーション済である。
「親子だよ」
あっさりと答えた。実際には南部は後見人だが、このホテルでは親子という形にしている。年齢的にもそれが一番自然なように思えた。
「ウソ!全然似てないじゃん」
本当に不躾な女どもだ、と、ジョーは再び心の中で舌打ちをした。世の中には色んな事情を抱えた人間だっているんだぜ。
「ま、養子だか…」
ジョーの言葉は女性たちの妙にはしゃいだ声にかき消された。
「へえ、そうなんだ。邪魔してごめんね。おやすみっ」
リーダー格らしき娘は、ジョーの不愉快そうな様子を感じ取ったのか、キャーキャーとはしゃぐ仲間を追いたてるようにしてその場から去っていった。
「なんだぁありゃ?」
娘たちの後ろ姿を追いながら、ジョーは呟いた。


続く。


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