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十五歳 vol.1

「ヴァカンス?博士と俺で、ですか?」
ジョーは矢じりを研ぐ手を止め、薄い色の瞳を南部に向けた。
南部はジョーの手元を一瞥すると、ほんの一瞬、露骨に眉を顰めたが、直ぐに いつもの謹厳な表情に戻った。
「そうだ。山のスパリゾートなんだが、研究のための資料採集がてら、十日ほどのんびり過ごそうと思う。君も一緒に来るんだ、いいね?」
ニコリともせずに言う南部に、ジョーはどう反応していいかわからなかった。
彼が南部の元で生活するようになって七年ほど経つが、一緒に旅行に行ったことなど一度もない。
そもそも、多忙な南部がまとまった休暇を取ること自体難しい。休暇どころか仕事での長期不在も珍しくなく、ひと月くらい放っておかれたこともある。
スパリゾートということは温泉があるはずだ。日本人は無類の温泉好きだというから、南部も温泉が目当てなのだろうか。
温泉なんて興味ねえや、と思いつつもジョーは
「はい」
と返事をするしかなかった。


結局、俺は博士に逆らうことは出来ねえのさ。
自虐的な気分を晴らすように、ジョーは刃を研ぎ終えた矢じりを壁の的へ投げつけた。カッ、と小気味良い音と共に矢は的の真ん中に命中した。
矢に付いた羽が揺れているのを横目に、ジョーはベッドに寝転び、目を閉じた。


七年前、両親が殺された現場にいたジョーは、銃を取り暗殺者に立ち向かおうとしたが爆弾に吹き飛ばされてしまった。
そのあとの記憶はない。
気がつくと、南部が側にいた。南部は驚くほど背が高かった。横臥するジョーの目線の高さに合わせて、ベッドの横にしゃがみこんだ。
「私は南部考三郎。君の治療をする医者だ。よろしく」
柔和な笑顔での自己紹介のあとは、自分への質問だった。
「君の名前も教えてくれないかな?」
南部の問いへの正しい回答は「ジョージ浅倉」だが、ジョーは答えられなかった。
「ジョー…」
とだけ答えた。聞きなれた愛称であり、両親の断末魔の叫びでもあった。
穏やかに自分と接してくれた南部が嫌だったわけでも、怖かったわけでもない。
それでも本当の名前は答えられなかった。理由は自分でもわからない。そのまま、今に至っている。
重傷でベッドから動けなかったジョーの回りには、南部の他にも数人の人間がいた。今にして思えば、国際科学技術庁の息のかかった医師や看護師だったのだろう。
彼らは一様に、南部を「博士」と読んでいた。
いつしかジョーも南部のことを「博士」と呼ぶようになっていた。


怪我から回復し、日常生活に支障をきたさなくなった頃、南部はジョーに言った。
「ジョー、怪我が治って、本来なら君は島に帰るべきなのだが、それはできない。可哀想だがはっきり言おう。君はもう、あの島で暮らすことは出来ないんだ」
その事は、薄々ジョーにもわかっていた。
島の人間は誰一人として、ジョーに会いに来なかったし、連絡もない。
あの日まで毎日のように一緒に悪さをしていた友達のアランとも、学校の先生とも、近所の人たちとも断ち切られた存在になったことを、子供なりにジョーは理解していたのだった。
「君のご両親はね、ギャラクターという悪い奴等に殺されたんだ」
「え?」
「ギャラクターはね、とても悪くて怖い連中なんだよ。君のご両親だけではなくて、他にも沢山の人が奴等に殺されたり、殺されそうになったりしているんだ」
「ギャラクター…」
ジョーはゆっくりと呟き、その名を頭に刻み込んでいく。
「ジョー、君も」
南部は言いかけた言葉を呑み込んだが、自分を見つめるジョーの、歳に似合わない厳しい視線を受け止め再び言葉を続けた。
「君も、島ではもう、死んだことになっているんだ」
死という言葉に、ジョーは以前アランと面白半分で探検した地下墓地(カタコンベ)を思い出した。
悪戯でもしてやろうと思っていたのが、山と積まれた骸骨の、死そのものの生々しさにさしもの悪ガキ二人も怖じ気づき、早々に逃げ出したのだった。
「死んだってことは、俺、カタコンベの骸骨の仲間なんだ…」
ジョーの呟きに南部も顔を歪めた。
「辛いことを聞かせてすまない。だが、そうしておかないと君が危険なんだ、わかってくれるね」
ジョーは頷いた。
「ジョー、君がもう一度島で暮らすためには、ギャラクターを倒さなければならない」
ジョーは顔を上げた。
「ギャラクターを倒すためには、沢山の人の力が必要なんだ。ジョー、私と一緒にギャラクターを倒そう。パパとママの仇を討つんだよ」
南部は右手を差し出した。ジョーも右手を出すと、その手を南部の大きな手が握りしめた。


ジョーは目を開けた。

全て南部に管理されている状態に漠然とした息苦しさを覚えるようになったのはいつからだろう。
南部にたいして、具体的に不満があるわけではない。
南部の元で受けた教育もトレーニングも、かなり上質なものであることはわかるし、衣食住にも不足はない。
それでも息苦しさに耐え難くなり、どこかへ出ていきたい衝動に駆られるときがある。
しかし、どこへ行くというのか?行きたい場所があるわけではない。故郷には帰れない。
それに、南部から離れたら、両親の復讐が果たせなくなってしまう。
結局は、この広い世界に、南部の元以外に寄る辺のない自分であることを思い知らされるだけなのである。
そして、両親も、家も、故郷も、友達も、自分から命以外の全てを奪ったギャラクターへの憎しみを一層募らせる。
それが、十五歳のジョーの日々だった。


続く。
「暗い海」を書きながら思いついた話です。
明るい話にしたいのに、なんだこの暗い展開(^^;

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