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暗い海 (前編)

「健、待っていたよ。入ってくれたまえ」
ノックをした扉の向こうから聞こえる南部の声が妙にねちっこい。健は違和感を覚えたが、そのまま扉を開けた。
中は応接室で、ローテーブルを挟んでソファが置かれていて、南部とアンダーソン長官がいつものスーツ姿で向かい合って座っている。アンダーソン長官の隣には、夫人がいる。みるからに高そうなワンピースを着た、長官と同じ程度に恰幅の良い女性だ。
彼女は、軽く咎めるような眼差しを健に向けた。
健は当惑した。ランニングにバミューダ、長い髪を無造作にまとめ足元はサンダルという極めてラフな服装はどうみても場違いだが、事前に南部の了解は得ていたからだった。
一時間ほど前、健が南部から、至急国際科学技術庁の南部の事務室まで来るようにとの連絡を受けた際、南部からはなるべくラフな格好で来るようにとの注文があった。
現在着用中のランニングとバミューダでもいいかと訊くと、それでいいから大至急来い、と言う。
訝りながらも健は言われた通りにした。
もしかしたら、長官は急なアポなし訪問だっかのかと思い、ご来客でしたら後程、と健が退室しかけるのを南部が止めた。それどころか
「いいんだ健、さあこっちへ来たまえ」
と、自分の隣に座るように促す。眼鏡の奥で、目元が綻んでいる。口調も妙だ。
健はますます困惑したが、言われた通り、南部の左隣に腰を下ろした途端、南部の左手が健の腰に廻され、引き寄せられた。右手が健の左手に添えられる。
健は驚いて南部を見た。南部の横顔は真剣そのものだ。
「奥様、そして長官」
毅然とした声で南部は言った。
「独身の私を心配してくださるお二人のお気持ちはありがたいのですが、私にはこの通り、将来を誓った者がおります」
南部の口調は、学会での発表や記者会見などと同様、堂々たるものだった。
漸く状況が呑み込めてきた健であったが、自分が何を話していいのかまではわからなかったので、黙っていることにした。
「彼は若くして亡くなった友人の忘れ形見でしてね。子供の頃からずっと私が面倒をみてきました。言わば親代わりですが、いつしか違う目で彼の姿を追っている自分に気がついたのです」
嘘をつくときは、幾ばくかの真実を混ぜると本当らしくなる、という。南部の言葉を聞きながら、健はそんなことを思い出していた。
「仮にも親代わりです。私は悩みました」
南部の名演説に、アンダーソン長官も奥方も真剣に聞き入っているようだった。
「しかし彼は、そんな私を受け入れてくれたのです!」
「博士!」
今こそ出番だ、と健は南部の手を握った。
「健!」
「博士!」
アンダーソン夫妻の目も憚らず、南部と健はじっと見つめ合った。
次はどうするのか、との無言の問いを健が南部に投げ掛けたとき、わかりましたわ、とアンダーソン夫人が口を開いた。
「そういうご事情がおありでしたのね」
夫人は先程の咎めるような表情とはうって変わって慈愛に満ちた表情になっていた。
「愛しあう二人を引き裂くようなことはしてはいけないよ」
諭すような良人の言葉に、夫人は深く頷いた。
程なくアンダーソン夫妻が退席し、南部が
「お二人を騙すようなことをしてしまったが、奥方から毎日のように縁談を持ち込まれて、少々困っていたのだ」
と、健に詳しい状況を説明しているとき、扉を叩くノックの音がし、アンダーソン長官が顔を覗かせた。
南部は、奥方の好意に添えなかったことを詫びた。
「気にしないでくれたまえ。家内も、あんな美青年がいるんじゃ女の入り込む場所なんてないわね、と、なぜか大喜びだよ。しかし」
長官はニコリと笑うと、言葉を続けた。
「南部博士には、演劇の才能まであるとはね。いやはや畏れ入った」
長官が状況を正しく理解してくれていることに、健は安心した。万が一、本気にされたら、不死身のガッチャマンといえども容易ならざる事態となるであろう。
恐縮する南部と二言三言言葉を交わすと、アンダーソン長官はドアノブに手をかけ、愛嬌のある笑顔を健に向け、ウインクをする。
「 G1号、ご苦労だったな」


「長官は俺がガッチャマンだってことをご存じだったんですね」
素顔でもバードスタイルでも何度も顔を合わせているので、わかっていても不思議はないが、表向きは彼らの正体は長官といえども知らないことになっている。
南部は腕を組んで窓辺に立っていた。窓から見える景色の先には、光を反射させ、キラキラと輝く海がある。
「健 、実はまだ任務は済んでいないんだ」
「博士?」
「別荘まで護衛と運転を頼みたい。別荘でお礼にディナーをご馳走しよう。フランス料理のフルコースだ」
「本当ですか博士!」
健は碧眼を輝かせた。普段は余程質素な食事なのか、豪華ディナーに年相応の若者らしい反応が微笑ましく、博士は眼鏡の奥で眼を細めた。


フランス料理のフルコースが待っていると思うと、アクセルを踏むことさえ楽しい。
あの程度の任務でこんないい思いをしていいのかな、と他のメンバーに対する罪悪感さえ生まれてくる。
そもそも、今回の任務で俺でなくてはいけない理由があるだろうか。健は今更ながらその事を考えた。
流石に甚平はまずいが、ジュンならもっと現実的だし、そう、あいつなら、もっと面白いことになったはずだ。
「博士、今回の任務ですけど」
ジョーにうってつけじゃないですか、あいつならもっと面白い芝居をしますよ、と言いかけて、健はハッとした。
ジョーへの命令は、もう二度と発せられることはないのだ。


後編に続く。

最初に公開したときにいただいたコメントとその返事です。

隼人

コーヒーが口から出かかったわ

後編どうなるのか、楽しみです。

2016/02/13 10:39:57

じゃいらーん

隼人さま、こんばんは。

続き、どうしよう(^^;実はちゃんと考えていません。

まああまり期待しないでくださいまし。

2016/02/13 19:19:52

キョーコ

こんばんは

私も隼人さん同様、大笑いで読み進めたのですが最後の一行が気になりました。
後編はどうなるのかしら

2016/02/16 20:41:19

じゃいらーん

キョーコさま、おはようございます。
返信遅くてすみませんm(__)m

後編、今考えています…。
なかなか書く時間がとれませぬ~。やっぱり創作は労力が半端ないです、楽しいけど。

2016/02/18 8:17:09
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