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十五歳 vol.5

「博士って運転上手いんですね、意外だな」
ジョーが感心した口調で言った。
「そうかね。ハンドルを握るのは久し振りなんだよ」
ジョーが南部の運転を見るのは初めてだった。いつも運転手か、運転手を兼ねた護衛が付いているのだ。
「昔は、砂漠にも山にも自分で運転して行ったものだがね」
新進気鋭の学者だった若い頃の南部は、採集や調査のときは現地まで自分で運転し、現地でも冒険家紛いのことをしていた。
だから、研究だけに没頭できる今の状況は有り難い半面、南部にとっては物足りなくもある。
「砂漠に山か。いいなあ。俺も砂漠のラリーとか、参加してぇや」
ジョーは、どこで覚えたのか妙なべらんめえ調で南部の言葉の後を受けると、地球の果てまでアクセル踏んで、と古いカートゥーンのテーマソングを口ずさんだ。


車は田園風景の中を抜けていく。
さっきまで遥か彼方に霞んでいた山の稜線がだんだんと近づいてくる。
「右側の山の一番高いところを見たまえ」
南部はハンドルを握ったまま、ジョーに言った。ジョーが言われた通りに外を見ると、山が間近に迫っている。 稜線は、ギザギザとして荒々しく、容易に近づくことを拒んでいるようだ。
一番高い場所は、ゴツゴツした岩の上に、まるで人為的に作ったような円錐形の小山が乗った状態になっている。
「あれは300年ほど前の噴火で形成された溶岩ドームだ。あの辺りの鉱物やガスを採集して調査をする。なかなかハードな現場だが、君も来るんだ、いいね?」
「わかりました。やっと出番が来たって訳か。腕が鳴るぜ」
そう言ってジョーは右手の拳を左手の掌にぶつける仕草をした。
「こら、喧嘩をしにいくんじゃないんだぞ。火山に由来するサンプルの採集に行くんだ。火山には興味はあるかね?」
「ん、あんまり…」
ジョーはそういって髪をくしゃくしゃさせると、再び外の景色に目に目を向ける。
本当にあまり興味がないのだな、と南部は察した。
ジョーの故郷の周辺はヨーロッパ有数の火山帯で、噴火も珍しくないような場所なのだが覚えていないのだろうか、とも思う。
ジョーが南部に引き取られてからの年数が、その前に故郷で過ごした期間にほぼ等しくなっている。
既に、ジョーの日常言語はユートランド辺りで使われている共通語だ。ジョーが話すシチリア語を聞くことは滅多になくなった。
故郷の言葉を忘れないようにとの南部の配慮で、ジョーには訓練と並行しシチリア語とイタリア語の学習も続けさせてはいるが、それでも日常的に使用していない言語は忘れていくらしい。
言葉を忘れていくように、やがて故郷の思い出も消えてゆき、惨劇の記憶だけがジョーの中で故郷の記憶として残るとしたら、あまりにも痛ましいではないか。
ユートランドに来てからは訓練ばかりで、良い思い出があるとも思えない。
そういうことも、ジョーが復讐にのめり込む原因になっているのではないか。
もう遅いかもしれないが、何か一つくらい楽しい思い出をジョーに残してやりたい、そして、別の人生に目を向けて欲しい、と南部は願った。


車は山中に入っていく。
降水量の多い地域なので、緑が滴るように濃い。
「博士、俺にも運転させて下さいよ。博士だって疲れてるんじゃないですか?」
「この地区は、ユートランドと違って十五歳では運転できないのだよ。退屈だろうが、もうすぐ到着するから我慢したまえ」
やがて森のなかに、ロッジ風の大きな建物が見えてきた。


続く。
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